水中での有機分子のインターカレーション化学

水中での有機分子の
インターカレーション化学

スメクタイトと呼ばれる粘土鉱物は、右図のように1nmのシリケートナノシートが何層もつみかさなった構造です。
その層間にはアルカリ金属イオンを含んでおり、様々な陽イオンと交換することが可能です。スメクタイトの粉末を一旦水に分散すると、一枚一枚がはがれて、コロイドのような分散液がえられます。ここに、有機陽イオンを添加すると、不思議なことに、ナノシートと有機陽イオンが自発的に集合して、有機陽イオンが層間に挟まった化合物が得られます。
界面活性剤をつかえば、生物の細胞膜などを構成する脂質二分子膜のような構造が形成し、小さい陽イオンをつかえば、ちいさな穴が無数にあいた、ゼオライトに似た物質が形成します。反応前と後を比べていると、あたかも分子レベルの積み木をしているようです。

スメクタイトの構造

このような発想のもと、ある有機陽イオンと粘土を組み合わせると、カフェインを吸着する構造ができることを知りました。

カフェインを吸着する構造

このメカニズムについて、兵庫県にあるSPring-8という、世界有数の大型放射光装置を用いて明らかにしています(Okada, T.; Izumi, K. et al., Langmuir, 37, 10469 (2021).)。

カフェインを吸着する構造のメカニズム

SPring-8 NEWS 107号(2022.3月号)
「粘土に吸着されるカフェインの様子をリアルタイムで解析 溶液中の粉末をSPring-8の放射光で結晶構造解析する」
http://www.spring8.or.jp/ja/news_publications/publications/news/no_107/

信濃毎日新聞 経済面記事
「粘土鉱物 カフェイン吸着の仕組み解明 信大などの研究グループ」2021/09/01
https://www.shinmai.co.jp/news/article/CNTS2021090100088

もともと水中で光らない色素が、ナノシートに固定されたことで発光することもあります。色素が強くナノシートに吸着されることが肝心ですが、色素の分子設計も工夫すれば、これまでにないほど量子効率が増大します(Okada, Miyamoto et al., Photochem. Photobiol. Sci., 2020)。水中でこれほど光る物質は珍しく、水中での光捕集系としても興味がもたれます。

ナノシートに固定されたことで発光

ナノシート層間という、狭い空間の大きさを設計すれば、ある特定の分子だけを選択的に吸着できると期待されています(総説:Chem.-Asian J., 7, 1980-1992 (2012)。
もし、この分子だけを吸着させたいと思ったとき、この空間をうまく設計して実現できれば、活性炭など身の回りの吸着剤では実現できない、高付加価値な吸着剤が得られそうです。また、この層間にうまく触媒活性点を固定できれば、酵素のような触媒として機能しそうです。
私たちは将来的に無機物質から人工酵素をつくりあげることを夢見て研究をすすめています。

ナノシート層間